【東京編】チャンピオン日記!その名はランバー・ソムデートM16!

僕は子供の頃、タイへ行ったことがある。バンコクとプーケットへ家族で旅行に行ったのだ。そして、確かプーケットでゴム園を見学し、旅行会社のバンで田舎道をホテルへ帰る途中だったと思う。ムエタイのジムを目にしたのだ。夜7時ぐらいで辺りは薄暗く、ヤシの木やゴムの木しかないような所に、一か所だけ明かりの灯った場所があった。そこから「ビシッ!バシッ!」といった今までに聞いたことのないような音が聞こえて来たのだ。それは人がキックミットを蹴る音で、その時の僕と大して歳の変わらぬ少年たちが、必死になって練習をしていた。もしあの時、僕もムエタイを始めていたら…。

僕はムエタイを知れば知るほど、その圧倒的な強さと技術の高さに魅了された。そして僕がキックボクシングジムに入会してほどなく、その男はやって来たのだ。ある日、いつも通りにロードワークを終えてジムへ行くと、見たことのない小柄な男がジムにいたのだ。明らかに日本人ではなかったが、彼が深くキャップをかぶっていたので、顔の様子がはっきりとは見えない。この時間、僕以外の練習生はまだ誰もジムに来ていなかった。彼はジムに入って来た僕を興味深そうに眺めて、彼の隣にいた通訳の女性と何か話した。そして手招きして僕を呼んで、練習しようと誘ってきたのだ。

僕がシャドーボクシングを始めると、彼は身振り手振りで「こうやって打つんだ」「ここはこれぐらいの高さで…」と説明してくれた。シャドーボクシングの後はサンドバックを使って「こうやって蹴ってみろ」と手本を見せてくれた。僕は通訳の女性に彼のことを聞いてみた。どうやら彼は今日からここでトレーナーとして働くらしい。

その新しく来たトレーナーは身長160cmにも満たない小柄な男だが、その動きは俊敏かつパワフルで、素人の僕が見ても明らかに他の日本人トレーナーと違っていた。洗練された高度なテクニックをいくつも持っていて、しかもそれが圧倒的な完成度なのだ。僕が新しく来たそのトレーナーの動きに見入っていると、そこへ他の練習生がやって来た。

「あっ、ランバーだ!」

来たばかりの練習生が呟いた。そう、この小柄な男は僕が後楽園ホールやビデオで見た、日本のチャンピオンクラスを片っ端から1ラウンドでKOしまくっていた“ランバー・ソムデートM16”だったのだ…!

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